上場廃止TOBと適時開示
上場会社が東証などの上場機関の規則に基づいて発表する文書である適時開示。この適時開示は、投資家保護を図るため、具体的には上場会社と投資家との間の情報の非対称性を軽減すべく、年を経るごとに開示の中身が具体化する傾向にあります。
2008年頃の公開買付けを実施する適時開示をGoogle先生で検索(例えば、「公開買付け 実施 2008 filetype:pdf」など)すれば、今と比較すると著しくペラッペラな適時開示を拝む事が出来ます。こんな内容で、買付価格の妥当性を一般投資家が検証できるわけがないと思うのですがね...
買付価格にスポットを当てると、今の適時開示、特に被買収側の適時開示はある程度充実した開示が求められるようになりました。具体的には、2013/7/8に東証から出された適時開示規制の改正が大きいと思います。
2013年の改正前から、上場廃止を目指すTOBにおいては、被買収側は、TOBに対する意見表明をする上で第三者算定機関から株式価値算定書を取得して、東証に提出するよう求めらていました。但し、その算定書は適時開示のように公表はされず、算定書の内容については、採用した手法、その手法を採用した理由、手法ごとの算定結果を適時開示内に記載するように求められているだけでした。
このような開示では算定書を受け取った上場会社と投資家との間にはまだまだ情報の非対称性があるということから、今後は、
【類似企業比較法を採用する場合】
・比較対象として選択した類似会社名
・その会社を選択した理由
・マルチプルとして用いた指標(EBITDA倍率、PER、PBRなど)
【ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法(DCF法)を採用する場合】
・算定の前提とした財務予測(各事業年度の売上高、営業利益、EBITDA、フリーキャッシュフロー)
・財務予測の出所
・財務予測が今回の取引の実施を前提としているものかどうか
・割引率(普通の事業会社であればWACC)
・継続価値の算定手法、算定に用いたパラメータ
の開示を求めてきました。実務家からすると、企業価値評価においてキーとなる数値を一通り開示することを求められている印象です。
もちろん全ての案件についてここまでの開示は要求されておらず、特に上場企業と投資家との間で情報の非対称性を埋める必要のあるケース、具体的には、MBOや親会社が上場子会社に対して上場廃止を伴うTOB・組織再編を行う場合に限られます。