自己株式取得の方法についての考察
株主に対する配当と同様、株主還元策のひとつとして捉えられる自己株式の取得。最近では、NTTドコモが3,000億円規模の自己株式取得を行ったとして話題になりました。
この自己株式の取得、企業が株主から自社の株式を購入する行為であることから、一定程度の手続きを踏んだり、一定程度の制約のもとでなければ、自己株式の取得ができないことになっています。
自己株式を取得する方法の中で最も一般的なものが、会社法165条の規定に基づく自己株式の取得、すなわち、
1.企業が株主総会特別決議を経て、自社の定款に、取締役会決議で自己株式取得をすることができる規定をおいて(会社法165条2項)
2.株主総会普通決議又は取締役会の決議を経て、自己株式取得の総枠を設定し(会社法156条1項、165条3項)
3.取締役会の決議で自己株式取得を決定する(会社法165条2項)
というものです。
この会社法165条に基づいて行われる自己株式取得は、上記の手続きの他に、取引形態が
1.企業が市場において行う取引
2.公開買付け
に限定されています(会社法165条1項)。ここでいう「市場において行う取引」とは、ザラバで取得する方法もそうですが、ToSTNeT(Tokyo Stock Exchange Trading Network System: 立会外取引)市場も該当します。時々見受けられる「ToSTNeTは市場外取引だ」というのは現在では事実と異なり、東京証券取引所が運営するれっきとした市場「内」取引と位置づけられています。
それでは、ザラバでの自己株式取得、ToSTNeTでの自己株式取得、公開買付けでの自己株式取得にはどのような違いが存在するのでしょうか。これを考察する上で重要な点は、取得価格の柔軟性の有無とみなし配当の有無が絡んできます。
まず取得価格の柔軟性の有無です。
ザラバでの自己株式取得の場合、その時々の市場株価が取得価格になります。大量の自己株式を取得することを想定した場合、そのことによって市場株価が急上昇する場合もあります。
ToSTNeTでの自己株式取得の場合、自己株式取得専用に創設されたToSTNeT-3を前提とすれば、取得価格は前日終値にしか設定できません。ただ、立会外取引のため、大量の自己株式を取得することを想定した場合でも、そのことによって市場株価が急上昇してしまうようなリスクは排除する事が可能です。
公開買付けでの自己株式取得の場合、取得価格の設定は自由です。例えば特定の大株主から公開買付けで自己株式を取得する場合には、大株主サイドは売却の確実性を担保するため、会社サイドは現金流出を極力避けたという説明を行うため、市場株価から10%前後のディスカウントをすることが一般的に行われています。
次にみなし配当の有無です。
そもそもみなし配当とは、株主が会社から金銭を払戻された時、利益剰余金の払戻しが行われたとみなすことが出来る場合には、税法上、配当と同じ取扱いにしようとする制度のことです。自己株式の取得は、税法上の取扱いとしてみなし配当となります。
このみなし配当、個人株主にとっては何らのメリットがない一方、法人株主にとっては配当の益金不算入という規定が適用されることとなり、みなし配当部分については課税がされないという恩恵を受けることになります。
ここからは法人株主に限定して話しを展開しますが、自己株式取得の対価が300、自己株式を実施した企業の資本金等の額が50、法人株主の株式取得簿価が100とすると、
・みなし配当 = 自己株式取得の対価:300 - 資本金等の額:50 = 250
・法人株主の譲渡損益 = 資本金等の額:50 - 簿価:100 = -50
となります。つまり、みなし配当の250は益金不算入(つまり課税がかからない)となり、50の譲渡損まで得る(他の利益と相殺することで税流出を防ぐことが出来る)ことになるのです。
このように、法人株主は自己株式取得に対して株式を売却するインセンティブが相当高いということがわかると思いますが、ひとつだけ注意すべきなのは、全ての自己株式取得に対してみなし配当が適用されるわけではない点です。
法人税法24条1項4号括弧書には、「金融商品取引所の開設する市場における購入による取得」はみなし配当が適用されないと記載があり、ザラバでの自己株式取得もそうですが、ToSTNeTでの自己株式取得もみなし配当が適用されないことに注意が必要です。
ToSTNeTでの自己株式取得にみなし配当が適用されないことは、カッパ・クリエイトがToSTNeT-3を用いて実施した自己株式取得にゼンショーが応じて売却したものの、後に東京国税局よりみなし配当が適用されないとして追徴課税を行った事例が最も有名で、既に国税不服審判所の判断もでています。詳しくはコチラを参照ください。