M&A備忘録

某投資銀行に勤めるアキラが綴るM&Aに関する備忘録。法制度や会計・税務の小ネタはもちろん、気になる事例の紹介や私見も書きたいと思っています

完全子会社化を伴うTOBで用いられる「公正性担保措置」

 

完全子会社化を伴うTOB、とりわけマネジメント・バイアウト(MBO)や親会社による上場子会社への完全子会社化を伴うTOBは、

1.最終的に、一般株主(少数株主)から強制的に株式を取得する行為が予定され、一般株主は株式の値上がり期待を奪われること

2.一般株主と買収者(MBOの場合は経営陣、上場子会社へのTOBの場合は親会社)との間に、利益相反の関係(高く売りたい一般株主と安く買いたい買収者)、情報の非対称性が通常の取引以上にあること

から、「公正性担保措置」と呼ばれるTOB価格の公正性を担保するため、利益相反を回避するための措置など、TOBの公正性を担保するための措置を実施することが通常です。

 

この「公正性担保措置」は実務上ある程度の型があり、大きく以下の6つにわけられれます。

1.買付者and/or対象者(被買収者)における第三者算定機関からの算定書の取得(フェアネス・オピニオンの場合も)

2.対象者における第三者委員会の設置

3.買付者and/or対象者における法律事務所からの助言

4.対象者における取締役・監査役全員の賛成

5.公開買付期間を比較的長期に設定

6.買付予定数の下限を設定(いわゆるマジョリティ・オブ・マイノリティ)

 

1については、買付者・対象者がそれぞれ証券会社等の第三者算定機関に対して対象者株式価値の算定を依頼し、その第三者算定機関から株式価値算定書を取得し、その株式価値算定書を材料として、TOB価格が適正かどうか判断することでTOB価格が公正であるとするものです。

通常、友好的なTOBで、株式価値算定書の結果の範囲外(もっと言えば結果よりも下の価格)でTOB価格が決定することは皆無です(私の知る限りではCCCのMBOは例外に該当)。

 

 2については、対象者における措置で、通常は、対象者の取締役会の依頼に基づき、対象者の社外監査役、弁護士や会計士をメンバーとして、完全子会社化が対象者の企業価値向上に資するか、TOB価格を含む取引条件は公正か、公正な手続きでTOBが実施されたか、完全子会社化は一般株主にとって不利益でないか等を対象者の取締役会に対して諮問し、対象者の取締役会はその諮問内容をもとにTOBを含む完全子会社化が公正であるとするものです。

 

3については、買付者・対象者がそれぞれ法律事務所に対して、意思決定の方法や過程等に対して法的助言を受けることで、TOBの実施の手続きが公正であるとするものです。

 

4については、上記の第三者算定機関による株式価値算定書、第三者委員会からの諮問内容、法律事務所からの助言内容をもとに、全会一致(但し、MBOの場合は出資する経営陣、上場子会社へのTOBの場合は親会社から派遣された役員は利害関係者のため決議には加わらない)でTOBに対して賛成することで、TOBを含む完全子会社化が公正であるとするものです。

 

5については、TOB期間は最短で20営業日とされているなか、それ以上の営業日(一般的には30営業日程度)を設定し、対抗する公開買付けがでてくる機会を設けることで、対抗する公開買付けがでてこない、すなわちTOB価格が公正であるとするものです。

 

6については、買付者の関係者が保有している株式を除いた一般株主が保有する株式の50%(マイノリティの内の過半、すなわちマジョリティ・オブ・マイノリティ)が応募されない限りTOBが成立しないような買付予定数の下限を設定し、一般株主が保有する株式の過半の賛成を求めることで、TOB価格が公正であるとするものです。