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M&A備忘録

某投資銀行に勤めるアキラが綴るM&Aに関する備忘録。法制度や会計・税務の小ネタはもちろん、気になる事例の紹介や私見も書きたいと思っています

DCF法と非流動性ディスカウント

 

株式価値算定の実務において注目すべき最高裁の決定が、2015年3月26日に出されています。その内容とは、ディスカウンテッド・キャッシュフロー法(DCF法)において、非流動性ディスカウントを認めないというものです。

 

株式価値算定においては、異なる3つのアプローチ、すなわち、

1. マーケットアプローチ(市場株価法、類似企業比較法等)

2. インカムアプローチ(配当還元法、DCF法等)

3. コストアプローチ(時価純資産法等)

があります。この内、今回の決定で焦点が当たっているDCF法(決定文の中では収益還元法と呼ばれる)とは、企業が将来生み出すであろうキャッシュフローを一定の割引率で現在価値に割り戻す手法であり、M&Aの企業価値評価の実務ではほとんどのケースで使用されます。

 

このDCF法で鍵を握るのが、「企業が将来生み出すであろうキャッシュフロー」と「割引率」です。

「企業が将来生み出すであろうキャッシュフロー」は、当該企業の将来の事業計画をもとに算出されることから、企業価値評価時点で最前と思われる事業計画の作成が重要となってきます。当該事業計画は、企業ごとによって個別性が出ることが多く、この個別性の反映ができることがDCF法の最大の特徴です。

「割引率」は、一般的には、加重平均資本コスト(WACC)と呼ばれる数値を使います。通常、企業の資金調達は、銀行借入等の有利子負債か株式市場による新株発行のいずれかと考えられることから、それぞれの調達手段のコストの加重平均を割引率として用います。この内、新株発行による調達コスト(資本コスト)は、評価対象企業と類似している上場企業のデータを用いて、資本資産価格モデル(CAPM)を用いて算出することが一般的です。

 

さて、決定文の内容に戻ると、「本件では収益還元法を用いるのが相当であるところ、A社において将来期待される純利益を予測し、その現在価値を合計すると、約3億6,158万3,000円となる。そして、非上場会社の株式は上場会社の株式のように株式市場で容易に現金化することが困難であるため、非流動性ディスカウントとして上記金額から25%の減価を行い、・・・(中略)・・・A社の株式の公正な買取価格は、1株につき80円となる。」との主張に対して、

「非流動性ディスカウントは、非上場会社の株式には市場性がなく、上場株式に比べて流動性が低いことを理由として減価をするものであるところ、収益還元法は、当該会社において将来期待される純利益を一定の資本還元率で還元することにより株式の現在の価格を算定するものであって、同評価手法には、類似会社比準法等とは異なり、市場における取引価格との比較という要素は含まれていない。・・・(中略)・・・収益還元法によって算定された株式の価格について、同評価手法に要素として含まれていない市場における取引価格との比較により更に減価を行うことは、相当でないというべきである。したがって、非上場会社において会社法785条1項に基づく株式買取請求がされ、裁判所が収益還元法を用いて株式の買取価格を決定する場合に、非流動性ディスカウントを行うことはできないと解するのが相当である。」と裁判所は結論づけました。

 

つまり、DCF法には「市場における取引価格との比較」はないことから、評価対象企業が非上場企業であったとしても、DCF法で算出された結果に対して、一律に●%の減価を行うような非流動性ディスカウントはしてはいけないということです。

 

この決定そのものについて、個人的には異論がありません。但し、以下の点については議論の余地が残っていると思われ、今後の実務上の対応が気になるところです。

1. DCF法で鍵を握るパラメータの内、割引率の資本コスト部分については、非上場企業の評価であっても上場企業のデータを用いる必要があり、資本コスト部分については、株式売却による換金性の違いから非上場企業に何らかの追加的コストを載せるべきではないか(決定に異論がなかったのは、本来は割引率に流動性に係るコストを見るべきでないのかと考えているからです(どの程度というのが示せないのが苦しいが...))

2. DCF法で算出された結果に対する補正として、マイノリティディスカウントが別途勘案されるべきではないか(今回の決定文の事例でも、株主の持株比率は10%弱であり、どちらかといえばマイノリティディスカウントで攻めるべきだったのでは...という感想)