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M&A備忘録

某投資銀行に勤めるアキラが綴るM&Aに関する備忘録。法制度や会計・税務の小ネタはもちろん、気になる事例の紹介や私見も書きたいと思っています

TOBと特別配当

 

コールバーグ・クラビス・ロバーツ(Kohlberg Kravis Roberts: KKR)による日本企業の大型買収が活発です。2016年11月には日産自動車からカルソニックカンセイ株式の取得を、2017年1月には日立製作所から日立工機株式の取得を発表しています。これらの株式取得は公開買付け(TOB)で行われますが、普段のTOBでは見かけない特別配当の記載があることが最大の特徴です。

具体的には、カルソニックカンセイや日立工機の株主は総額でA円の金銭を得ることができるが、その内B円は特別配当で支払われ、残りのA-B円がTOBの買付価格となるというわけです。仮に、何らかの原因で特別配当が実施できなかった場合にはB=0円になるため、全額が買付価格として支払われることになります。

すなわち、買付者が対象会社株主に支払う金銭は、特別配当のあるなしに関わらず同一になるように設計されており、一見すると、特別配当をわざわざ実施する意義がよくわかりません。しかし、対象会社株主の内、法人大株主の手許に残る金銭の観点で見れば、非常にメリットのあるスキームとなります。その要因となるのが、「受取配当等の益金不算入制度」です。

 

「受取配当等の益金不算入制度」は、簡単に言えば、株式を保有している子会社、関連会社等から親会社が受け取る配当金の一部又は全部について、親会社の税金計算の対象から除外する(益金不算入)という制度です。子会社、関連会社等からの配当金は、法人税等が既に勘案されている子会社、関連会社等の当期純利益の蓄積を原資として出されるものであり、その配当金について、親会社側でさらに課税することは二重課税になるというのが制度設計の趣旨です。

よって、この制度は親会社に対する減税を意味するものであり、特に、益金不算入が可能な配当金の割合を定める基準となる、親会社が保有する子会社、関連会社等の持株割合が頻繁に改正されています。足許は平成27年度税制改正で、下記の通りやや区分がやや細かくなっています。

 - 持株割合100%の場合、配当金の全額が益金不算入

 - 持株割合1/3超、100%未満の場合、配当金の全額(但し、負債利子控除後)が益金不算入

 - 持株割合5%超、1/3以下の場合、配当金の50%が益金不算入

 - 持株割合5%未満の場合、配当金の20%が益金不算入 

一方、TOBなどを通じて株式を譲渡する際には、法人であっても当然譲渡益課税が発生します。つまり親会社は、株式譲渡の対価として受け取る金銭については譲渡益課税が発生し、特別配当として受け取る金銭については一部又は全部が益金不算入となるという、税金上の相違が生じるのです。これが特別配当をわざわざ実施する最大のインセンティブなのです。

 

日立工機の事例を使いながら、具体的な数字でみていきましょう。

 - TOB価格:1,450円(但し、特別配当580円実施の場合、870円)

 - 日立製作所における日立工機株式簿価:約424円
(2017/1/19付変更報告書No.16より推定)

 - 負債利子控除は考慮しない

 - 実効税率:30%

日立製作所は日立工機株式を1/3超保有しているので、負債利子控除を考慮しなければ、特別配当の全額が益金不算入となります。日立工機1株を売却した場合、日立製作所の手許に残る金銭は下記の通りとなり、その差は174円にもなります。日立製作所が保有する日立工機株式は約40.8百万株ですから、174円×40.8百万株=約71億円もの差額になります。

[特別配当実施の場合]
特別配当580円+TOB価格870円-(TOB価格870円-株式簿価424円)×実効税率30%=約1,316円

[特別配当未実施の場合]
TOB価格1,450円-(TOB価格1,450円-株式簿価424円)×実効税率30%=約1,142円