M&A備忘録

某投資銀行に勤めるアキラが綴るM&Aに関する備忘録。法制度や会計・税務の小ネタはもちろん、気になる事例の紹介や私見も書きたいと思っています

主要M&A案件(2017年1月)

 

日付は全て各企業からの発表日。買収規模が大きな案件、気になる案件をピックアップしたもので、網羅性はありません。

2017/1/5 [In-Out / 株式取得 / 完全子会社化]
住友ゴム工業、英国タイヤ販売大手のミッチェルディーバ・グループ(Micheldever Group Ltd)買収
買収価格は企業価値ベースで215百万ポンド(約312億円。1ポンド=145円で計算)。
住友ゴム工業プレスリリースによれば、買収の目的は、「2015年10月のグッドイヤー社とのアライアンス契約解消に伴い経営の自由度が増した欧州市場において、生産増強及び販売拡大策を積極的に進めておりますが、その一環として、英国市場における「FALKEN」ブランドのプレゼンス向上を目的」としている。Micheldever Groupは2016年3月末時点で債務超過状態、300億円以上を要する買収成否の判断は「FALKEN」ブランドの展開にどこまで貢献できるかに尽きるでしょう。

2017/1/9 [In-Out / TOB / 完全子会社化]
武田薬品工業、米ナスダック上場のアリアド・ファーマシューティカルズ(ARIAD Pharmaceuticals Inc)買収
買収価格は一株当たり24.00米ドル、企業価値ベースで約52億米ドル(約6,000億円。1米ドル=116円で計算)。
武田薬品工業のプレスリリースによれば、上市済みのIclusigと臨床試験段階のbrigatinibが今後のARIAD Pharmaの売上に貢献し、特に後者は年間10億米ドルを超えるポテンシャルがあると判断している模様。2015年12月期のARIAD Pharmaの売上高は約1.2億米ドルですから(なお、利益は赤字、2015年12月末時点では債務超過)、brigatinibの成否が買収成否の重要なカギを握ると思われます。

2017/1/13 [Out-In / TOB / 完全子会社化]
コールバーグ・クラビス・ロバーツ(Kohlberg Kravis Roberts: KKR)、日立製作所グループより、日立工機買収
買収価格は一株当たり1,450円(内、特別配当580円)、株式価値ベースで約1,470億円。プレミアムは、発表日前営業日株価対比▲4.10%、1カ月平均株価対比7.89%、3カ月平均株価対比35.26%、6カ月平均株価対比62.37%。
2016年10月に日本経済新聞が売却検討を報じたこの案件。日立グループがインフラやIoT関連事業へシフトを進める中でのまさに選択と集中の一環で、当初は米国投資ファンドのカーライルの名前も挙がっていましたが、KKRがカルソニックカンセイへのTOBに続く大型投資を実施という結末になりました。

2017/1/31 [In-In / 会社分割&株式取得 / 完全子会社化]
ノジマ、富士通子会社のニフティより、コンシューマー向けネット接続事業買収
買収価格は252億円。
こちらも2016年10月に日本経済新聞が売却検討を報じている。その際にはKDDI、伊藤忠、オリックス、丸紅などが候補とされており、2016年内の合意を目指していた模様。その後、2016年12月にKDDIがBiglobeの買収を発表し、状況が一変した可能性がある。最後に勝ったのは一度も候補として挙がらなかった家電量販店を運営するノジマ。買収の目的は、「IoT時代を見据えたトータルソリューション企業への進化」としている。競争が激しい事業環境の中で、生き残りをかけた差別化の切り札としての買収と思われる。